「管理職になるつもりはない」と言う若手を次世代リーダーに育てるには。リーダー研修との違い、選抜の考え方、成功体験をつくる座組み4ステップを、製造業の実例(不良品判定率12%から2%)とともに解説します。
目次
この記事の結論
管理職のなり手不足は、登用倍率の低下と2030年以降の役職定年層の急増によって、これから構造的に進みます。
理論を学ばせるだけでは、「管理職になるつもりはない」という若手は動きません。
カギは、理屈より情動で組織を動かす経験、つまりリーダーとしての成功体験を早期につくることです。
本記事では、リーダー研修と次世代リーダー研修の違い、受講者選抜の考え方、成功体験をつくる座組み4ステップを、製造業の実例(不良品判定率12%から2%へ改善)とともに解説します。
※本記事は、2026年8月28日にアンドア株式会社が開催したセミナー「『成功体験』からつくる次世代リーダー育成。20〜30代を次の管理職に」の内容を再構成したものです。
次世代リーダー育成について、人事の方から最近いただいたご相談をご紹介します。
経営層から「管理職のなり手が少ないのは困る」と注文をもらい、候補生を選抜してリーダー育成に投資しました。経営、組織のあらゆる理論を学ばせましたが、本人たちは「管理職にはなるつもりはない」というのです。
もう、どうしたらいいのでしょうか。
この問題は、非常に多くの会社で起きています。
一見すると「学習内容が悪かったのではないか」という議論になりがちですが、実は次世代リーダー育成の勝負は、学習内容よりずっと手前の、企画と選抜の段階から始まっています。
「どのケースワークが良いか」「どの理論を学ばせるべきか」といったハウツーの議論は、この分野ではあまり効果的ではありません。
そこで本記事では、まず次世代リーダー育成の基本を交通整理し、そのうえで「熱量を生み出すリーダーをどう育てるか」を実例で解説します。
最初に押さえたいのは、よくある1日型の「リーダー研修」と「次世代リーダー研修」はまったくの別物だということです。
| リーダー研修 | 次世代リーダー研修 | |
| 目的 | 「リーダー」という役割を認知する | リーダーとしての予行演習をする |
| 特徴 | 座学中心で、事後の実践は人それぞれ | プロジェクト型で、実践とフィードバックが中心 |
| 一般的な人数 | 36名/日 | 6名/プロジェクト |
| 一般的な日数 | 1日(7.5時間) | 6ヶ月(研修5日+現場実践・コーチング含む) |
| 一般的な予算 | 70〜100万円/日 | 300万〜350万円/プロジェクト |
1日型のリーダー研修は、「リーダーという役割を認知する」ことが目的です。
リーダーシップやフォロワーシップを学び、職場の中で何を役割貢献すべきかを座学中心で確認します。
既存リーダーの学び直しや、「改めてリーダーとして頑張ろう」と捉え直すリテンションには十分意味があります。
一方で、構造的な弱点もあります。
1日だけの預かりでは事後の実践が「各自、現場で頑張ろうね」にならざるを得ず、研修後の行動変容を追えません。
また、研修中の発言やワークの成果物だけでは、「誰を次の管理職に登用すべきか」を人事が判断するにはデータが少なすぎます。
なお、1日型を含む管理職研修の具体例は「管理職研修の事例10選」で紹介しています。
対照的に、次世代リーダー研修の目的は「リーダーとしての予行演習」です。
何日も座学を積み上げるのではなく、現場で実際にプロジェクトを回してみる、部下や関係者に関わってみるところまでを設計に含めます。
実践とフィードバックが中心になるため、受講者一人ひとりの組織事情や課題に即したリーダーシップ開発ができ、選抜から昇進への育成と見極めに使える質の高いデータが集まります。
工数負荷と費用は確かに大きくなります。
ただし6ヶ月間ずっと預かるわけではなく、期間中に5日程度の研修日を置き、その間は業務の中で現場実践を行い、都度コーチングが入るという設計が一般的です。
「次世代リーダー育成」と名の付くプログラムは数多くありますが、2つの軸で整理できます。
1つは理論重視か現場実践重視か、もう1つはゴールが事業開発寄りか組織開発寄りかです。

理論重視×事業開発には経営大学院やビジネススクール、理論重視×組織開発にはリーダーシップ公開講座やインバスケット演習(大手研修会社が得意)、実践重視×事業開発には新規事業提案コンテストや越境学習が位置づけられます。
どれが良い悪いという話ではありません。
ただ、理論重視のプログラムでよく起きるのが、「理屈はよく分かったが、現場でやった試しがない」「現場でやるにはポストが空いていない」という足踏みです。
優秀で学習力が高いのに、リーダーとしての登用経験がつくれないために「まだ準備段階でいいかな」と保留され続けてしまうケースが少なくありません。
アンドアが得意とするのは4つ目、実践重視×組織開発です。
架空のビジネスケースではなく、実際の組織の問題を題材に予行演習を行うため、リーダーの成功体験づくりと実在する問題の解決が同時に進みます。
2026年現在、「次世代リーダー育成を急ぎたい」というご相談が増えています。
背景を、ある大手企業の人員構成データ(セミナーではこの企業の人口ピラミッドを加工して紹介)から見てみます。
管理職ポストの数を固定して、管理職候補となる世代の人数から登用倍率を試算すると、2018年は6倍、2023年は3倍、2028年は2倍、2033年には1.6倍と推移します。

リーマンショック前後に採用を絞った影響で30代の層がもともと薄く、そこへ最大ボリューム層の高齢化が重なるためです。
この試算から言えることは2つあります。
1つ目は、「なりたくないけれど管理職になった」という人が構造的に増えることです。
倍率が6倍あれば「なりたい人の中から選ぶ」ことができますが、2倍ではそうはいきません。
2つ目は、2030年以降に役職定年層が急増することです。
最大ボリューム層が55歳前後に達し、管理職から退く人が一気に増えます。
もともと少ない次世代リーダー層を意図して育てておかないと、組織のバランス自体が崩れかねません。
「あなたは明日から管理職ね」と役割を与えれば人が育つ、という時代ではなくなっています。
数年後に管理職にしたい人材には、2〜3年前から心構えとスキル開発の準備を用意しておく必要があります。
若手はなぜ「管理職になるつもりはない」と言うのでしょうか。
コロナ禍の前後で起きたマネジメントの変化から読み解けます。
全体像は次のとおりです。

2018年頃までは、マネジャーの仕事とプレイヤーの仕事が明確に分かれていました。
育成は「見て覚える」が中心で、優秀なマネジャーの右腕として配置し、2〜3年かけてマネジャーの姿を学ばせる方法が機能していました。
コロナ禍では、プレイヤーに負荷をかけないよう、マネジャーが仕事をどんどん巻き取る動きが広がりました。
働き方改革の流れも重なり、この巻き取りは加速します。
ところがプレイヤー側は幸せになったかというとそうではなく、必要ではない仕事に時間をかけてしまうなど、優先順位の迷子状態が生まれました。
リモート会議の普及やハラスメント防止の啓発も、この時期に一気に進みました。
コロナが落ち着いた後も、マネジャーが巻き取る構図は解消されていません。
マネジメントがやるべきこと、配慮すべきことは2018年頃と比べて格段に増えています。
一方のプレイヤーには「私はいる意味がないのかな」「ほったらかしにされている」という成長実感の喪失が広がり、いわゆるホワイト離職に代表される問題も起きています。
さらに、超売り手市場、コロナ禍に入社した世代のリーダー化、「管理職は罰ゲーム」という言葉が広がりました。
こうした複雑な心理的抵抗が重なった結果、育成投資を急ぎたい会社側と、「私はいいです」と言う若手側のすれ違いが生まれています。
では、どうすればよいのでしょうか。
アンドアが次世代リーダー育成でご案内しているコンセプトは、「情動で組織を動かすリーダーをつくる」「リーダーの成功体験で学ばせる」「早期育成する」の3つです。

1つ目は、理屈ではなく情動で組織を動かす経験をさせることです。
特にコロナ禍に入社した世代は、オフィスの中で人が動くドラマを見る機会が乏しいまま育っています。
「理屈が正しければ人が動くわけではない。情動で人は動く」ということを、育成の機会の中で体験させる必要があります。
2つ目は、リーダーとしての成功体験づくりです。
組織の中でうまくいっていないことや部門間の対立を題材に、「自分が変えた」「自分がつくった仕組みが残った」という実感を持たせます。
ビジネスケースで満点を取っても、成功体験にはなりません。
3つ目は早期育成です。
「いつか慣れたらいいね」という従来のスキームでは、前述の構造変化に間に合いません。
このコンセプトを、実際の支援事例でご紹介します。
ある石油化学系メーカーは、世界に5社ほどしかない独自技術を持ち、日本ではオンリーワンの存在でした。
社会インフラ刷新の需要増という追い風もある一方、「作れば売れる」という現状維持の錯覚や、親会社と大口顧客からの受託体質という弱みを抱えていました。
そこへ、国内の主要顧客に対する不良品の多発と納期遅れが重なります。
営業は謝罪と説明のために全国を回りますが、生産技術部門に原因を確認しても「調べているが分からない」の繰り返し。
営業と生産技術、製造の間で、次のようなすれ違いが日常化していました。

営業は「顧客に謝罪し、説明行脚する身にもなってほしい」といらだち、生産技術は「製造が協力的でなく、データを見せてくれないのが問題ではないか」と疑い、製造は「人が足りない中で必死にやっているのに、やることを増やさないでほしい」と反発する。
会議を重ねても根本原因は不明のまま、疑心暗鬼だけが深まっていく状態でした。
現場がこれだけ混乱している中で研修に人を出すことに、人事の方は相当心細かったそうです。
しかし、この会社の経営層は「こういう時だからこそ人を出して育てよう」と腹を決めました。
営業、生産技術、製造の各部門から次世代リーダー候補が選ばれ、その中に生産技術部門の女性リーダー(36歳、社歴12年、課長候補)がいました。
問題発見のセッションで、彼女はこう口にします。
「不良品、不良品と言うけれど、10年前はこんなに問題が少なかった。不思議なんですよね」。
コーチングを重ねて分解すると、次のことが見えてきました。
そこから彼女は仮説を立てます。
「不良品の基準が社内で勝手に高くなりすぎて、粗悪品ではないものまでアウトと判定され、納品が止まっているのではないか。」
この仮説を確かめるために彼女が取った行動は、業務を後輩に委任して空白をつくる、毎週15分の現場視察と対話、部門トップを巻き込んだ基準緩和の話し合い、の3つでした。

結果、読みは当たっていました。
安全は立証されたまま、不良品判定率は12%から2%へ激減。
顧客への安定供給が改善し、製造部門に頼っていた過剰な設備メンテナンスも不要と判定され、現場の工数も大きく減りました。
営業、生産技術、製造の全員が胸をなでおろした瞬間です。
1日型の研修であれば、「仮説と行動計画を立てる」ところまでで十分合格です。
しかし次世代リーダー育成の価値は、実際にやってみた後の変化まで伴走し、見届けられるところにあります。
この事例の裏側で、人事とどのような準備をしていたのか。
座組みは、企画、受講者の選抜、受講と現場実践の支援、効果検証の4ステップです。

この会社では「理屈ではなく情動で動かすリーダーを育てる」という企画を経営層に提言しました。
具体的には、状態目標を自分の言葉で掲げられること、自部門を超えて対話でリソースを巻き込めること。
この2つができれば「育った」と定義し、財務や会計などの理論は思い切って横に置きました。
アンドアの次世代リーダー育成案件累計180案件の実績からも、この2要素の成長実感が必須だと考えています。
選抜では、PM理論(三隅二不二(1984)『リーダーシップ行動の科学(改訂版)』有斐閣)を使いました。
目標達成機能(P)と集団維持機能(M)の2軸で人材を見る、有名な理論です。

目指す組織像が明確にあったため、成果への圧力が強い気迫型Pmからは選抜せず、集団維持機能Mが強い人を優先したのです。
この判断は役員層にも理解を求めて合意しました。
これがあらゆる会社に当てはまるわけではありません。
大事なのは、目指す組織像から逆算して「だから誰を呼ぶのか」というロジックをつくることです。
研修はおおむね次の構成です。
day1:リーダーシップのスタンスをセットし、現状、ありたい姿、問題の所在、実践行動を自分の言葉で言語化します。
day2:360度フィードバックで、自分の癖や弱さの根底を見つめ、周囲からの期待に向き合います。
day3:視座向上ワークショップとして、隣の部署のためではなく「顧客に何の価値を提供するために仕事をしているのか」を全部門で確認します。
day4:成果発表プレゼンで、成長実感を言語化し、ありたいリーダー像を経営に提言します。

その間の現場実践には、都度コーチングが入ります。
効果検証では、経験主義、自己決定主義、対話主義、持論化、モチベーション、フィードバック、教育観の7つのコンピテンシーで受講者一人ひとりを評定し、個別の講評とともに通知表として返します。
「誰から登用すべきか」の定量的な材料が残るため、やりっぱなしになりません。
同時に、研修から見えた組織課題を「組織提言」としてフィードバックします。
この会社の場合、対話不足による相互理解の欠如や、フィードバックを攻撃と捉える風土が、部門間対立の深層にあることが見えてきました。
次の一手につながる、人事にとっての副産物です。
最後に、アンドアが次世代リーダー育成で一番大事にしている考え方をお伝えします。
自転車の補助輪を外した日のことを思い出してください。
転ぶことは恥ずかしいことでも、ダメなことでもありませんでした。
何度も転んで、悔しい思いをして、それでも少しずつ乗れるようになった体験こそが、「安心して自転車に乗れる自分」をつくったはずです。
いま企業の中では、「失敗させないようにする」動きが強まっているように感じます。
失敗させないための研修、失敗させないための配慮。
それ自体は大切です。
しかし、教育とは失敗させないことではなく、安全な失敗から上達することだと私たちは考えます。
リーダーとしての「安全な失敗」の機会は、構造的に用意しにくくなっています。
だからこそ、意図して機会をつくり、「リーダーって面白い」という熱中した成功体験を若手に届けること。
それが、後輩たちが「いつかあんなリーダーになりたい」と感じる組織文化づくりにもつながっていきます。
アンドアでは、さまざまな業種、人数規模の企業と次世代リーダー育成のプロジェクトをご一緒しています。
自社に近い事例をお知りになりたい方は、お気軽にご相談ください。
Q1. リーダー研修と次世代リーダー研修は何が違うのですか。
A. 目的が違います。
リーダー研修は「リーダーという役割を認知する」1日型の座学研修で、リテンションに有効です。
次世代リーダー研修は「リーダーとしての予行演習」を目的とした6ヶ月程度のプロジェクト型研修で、実践とフィードバックを通じて、選抜から昇進への育成と見極めを行います。
Q2. 次世代リーダー研修は何人で、どのくらいの期間やるものですか。
A. 一般的には6名前後の少人数で、6ヶ月程度が目安です。
期間中に5日程度の研修日を置き、その間は業務の中で現場実践を行い、都度コーチングが入ります。
10名を超えると個別の伴走が難しくなります。
Q3. 受講者は誰を選抜すべきですか。
A. 一律の正解はありません。目指す組織像から逆算して選抜ロジックをつくることが重要です。
本記事の事例企業は、PM理論の理想型PMのうち集団維持機能が強い人材を優先し、成果への圧力が強い気迫型Pmはあえて外すことを役員層と合意しました。
Q4. 管理職になりたがらない若手には、どう向き合えばよいですか。
A. 理論を学ばせて説得するのではなく、リーダーとしての小さな成功体験をつくることから始めてください。
実在する組織の問題を題材に「自分が変えられた」という実感を持てると、「リーダーって面白い」という情動が生まれ、管理職への心理的抵抗が下がっていきます。
山梨県出身。山梨でコミュニティカフェを経営後、人材組織開発コンサルティング会社に入社。 スタートアップから大手企業の若手・中堅向けリーダーシップ開発や組織の対話風土改革に尽力した後、新規事業開発部にて事業開発マネジャー、営業マネジャーを兼任。 自社内の事業構造改革から営業戦略・マーケティング戦略まで広く携わり、その知見を人材・組織開発へ転用することを得意としている。 モットーは、「本来の力が発揮できる対話力と環境づくりを引き出す」
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