部下のやりがいが見えず悩む管理職へ。回避的マネジメントを脱却し、過去の「好き」から内発的動機を発見する対話術を解説。小さな承認で自論を育て、構造に焦点を当てる3つの視点転換で、部下が主体的に動き出すマネジメントを実現します。
目次
この記事の結論
部下のやりがいは、上司が管理して与えるものではありません。
上司にできるのは、やりがいが生まれる条件を対話でつくることです。
アンドアが2,062名に実施した調査では、対話の質が仕事のやりがいに与える影響は、対話の量(頻度)の約2.4倍でした。
回数を増やす前に、1回の対話で「過去の好きを聴く」「プロセスを承認する」「原因を個人ではなく構造に向ける」の3点を変えるほうが効きます。
逆に、やりがいを最も奪っているのは、ハラスメントを恐れて深く関わらない「回避的マネジメント」です。
「最近の若手は、何にやりがいを感じているのかわからない」
「モチベーション面談をしても、本音が出てこない」
「評価面談で褒めても、あまり響いていない気がする」
管理職の方から、こうした声をよくお聞きします。
部下のやりがいを引き出そうと1on1を増やし、キャリア面談を丁寧に行っても手応えがない。
むしろ部下は口数が減っていく。
この記事では、なぜ「やりがいを管理しよう」とするほど空回りするのかを、2,062名の調査データと管理職研修の現場から整理します。
そのうえで、明日の1on1からそのまま使える問いかけの文例まで具体的にお伝えします。
やりがいが見えないとき、多くの管理職は「自分の聴き方が悪いのだろうか」と自分を責めます。
しかし問題は努力の量ではなく、やりがいという言葉の捉え方にあります。
近年、フィードバックを控え、優しく接する上司が増えています。
その結果、職場の人間関係は悪くない、和やかに働けているという声も上がります。
風通しの良さは、たしかに大切です。
しかし、仲が良いだけのチームでは、メンバーは力を発揮しきれません。
優秀な若手が続けて辞めていく職場をお聞きすると、退職者はこう言い残します。
「職場の雰囲気は良かった」「上司も優しかった」。
それでも、社員はチームを離れてしまいます。
それは、居心地の良さと、働きがいは別物だからです。
若手が本当に求めているのは、「自分は何ができるようになったか」という成長の実感です。
仲の良さではなく、昨日の自分より今日の自分が前に進んでいるという手応え。
これが、やりがいの中身です。
ところが多くの上司は、「成果」は褒めても「成長」を言葉にできていません。
「今月も目標達成できたね」と伝えても響かないのは、部下自身が「自分の何が伸びたのか」を掴めていないからです。
成果は結果の話、成長は変化の話です。
やりがいを扱うなら、褒める対象を結果から変化に移す必要があります。
若手の成長実感をどう支えるかは、キャリア自律時代の若手育成、鍵は「細かいフィードバック」と「対話の質」でも詳しく扱っています。
部下が求めているのは「よくやった」ではなく、「前より、ここができるようになったね」です。
なお、働く本人の側から見た「やりがいを失う理由」については、仕事の「やりがい」を考える。
やりがいを失う4つの理由とやりがいを醸成する4つの方法で整理しています。
部下のやりがいが静かに失われていく最大の要因。それが回避的マネジメントです。
回避的マネジメントとは、意図しないハラスメントやトラブルを避けるために、上司が深く関わることをやめ、見て見ぬふりや遠回しのフィードバックに終始してしまう関わり方を指します。
パーソル総合研究所の調査(※2)では、上司の81.7%が「ミスをしてもあまり厳しく叱咤しない」、75.3%が「飲み会やランチに誘わないようにしている」と回答しています。
上司本人の課題意識としても、「部下にフィードバックするのが難しい」「自分のマネジメントがハラスメントになるのではないかと気を使う」がいずれも4割を超えました。

表面的には優しく見えるスタイルです。
しかし、その裏で部下のやりがいは静かに削られていきます。
同じ調査で、部下側の33.3%が「上司は自分を育てる気がないと感じる」と答えています。
35.8%は「上司からのフィードバックが少ない」と回答しました。
3人に1人が、育てる気を感じていないということです。
上司は「深く関わるのが怖い」「思っても言わない」という状態になり、部下は「期待されていない」「成長している気がしない」と受け取る。
上司の配慮が、部下には無関心として届いてしまう。
この認識のずれが、回避的マネジメントの本質的な怖さです。
そして、このずれが続くと、部下は「何をやっても変わらない」という無力感を学んでしまいます。
| リスク | 何が起きるか |
| マインド面の育成が止まる | スキルは教えられても、仕事への向き合い方や考え方を育てられない。部下は表面的な対応しかできなくなる |
| 上司の巻き取りが増える | フィードバックを避けた結果、部下が伸びず、上司が仕事を引き取る悪循環に入る |
| 信頼関係が壊れる | 関わりを避け続けた反動で、意のままに動く部下だけを強く指導する状態に転じる。事情聴取のような1on1、一方的な説教、そして優秀層の離職につながる |
3つ目は特に注意が必要です。
関わらないことの反動として、特定の部下にだけ強く関わる状態が生まれます。
優しさの回避と、部分的な強圧は、同じ根から生えています。
回避的マネジメント以外にも、良かれと思ってやっていることが、やりがいを削っている場合があります。
「5年後、どうなっていたい?」
「将来のキャリアプランは?」
未来志向は大切です。しかし、キャリアが見えていない部下に未来ばかり問いかけても、相手は困ってしまいます。
「まだわかりません」「考えておきます」が続き、対話は深まりません。
キャリアが見えない人に必要なのは、未来の深掘りではなく、過去の「好き」の発見です。
「今月の数字は?」
「結果さえ出してくれればいい」
成果主義は合理的に見えます。
しかし成果だけに注目すると、部下が工夫したこと、試行錯誤したことは承認されません。
すると部下の中に「これは良い仕事だ」という自分なりの判断基準、つまり持論が育ちません。
持論がない部下は、常に上司の評価をうかがって動くことになります。
主体性もやりがいも、そこからは生まれません。
「なぜミスしたの?」
「なぜ報告が遅れたの?」
トラブルが起きたとき、「なぜ」と個人に問い続ける上司がいます。
しかし多くの問題は、個人の能力不足ではなく、仕事の進め方や仕組みに原因があります。
個人を問い詰めると、部下は身構え、本当の原因を話さなくなります。
これでは同じ問題が繰り返されます。
ここまでは現場の実感の話です。
では、データは何を示しているのでしょうか。
アンドアが2,062名に実施した「職場の対話実態調査」(対話白書2026/※1)では、対話とやりがいの関係について次のことがわかりました。
1. 対話の質の影響力は、量の約2.4倍
対話の量(1on1などの頻度)と質(対話の評価)が、仕事のやりがい・組織への愛着・継続就業意向に与える影響を比べたところ、質の影響力は量の約2.4倍でした。
さらに、量が効果を生むときも、その約6割は「質が上がったから」効いています。
1on1の回数を増やしても、やりがいは増えません。

2. 不満の1位は「話し合っても結果が実行されない」(45.5%)
対話への不満理由の1位がこれで、2位以下を15ポイント以上引き離しました。
どれだけ丁寧に聴いても、決めたことが動かなければ「話しても無駄」に変わります。
3. 対話が「必要」は79.7%、「満足」は38.4%
必要性は感じているのに、満足は追いついていない。
この約40ポイントの差が、多くの職場の出発点です。
4. 20代の満足度56.4%が、30代で37.5%に急落
20代は教えてもらう側として丁寧に聴いてもらえる一方、30代は教える側に回り、対話の余裕を失います。
やりがいの支援が最も手薄になるのが30代です。

5. 重要だとわかっているのに実践できていない人が約73%
なかでもギャップが最大だったのは「決まったことを責任を持って実行する」でした。
最も重要と認識され、最もできていない要素です。
数字が示しているのは、やりがいは面談制度の量では動かない、ということです。
動くのは、1回の対話の中身と、その後の実行です。
調査結果の全体像は職場の対話・1on1に関する調査データまとめ【2026年版】にまとめています。
では、1回の対話で何を変えればよいのか。
累計2万名以上が受講してきた研修の現場で、実際に効果が出ている5つを紹介します。
未来のキャリアが見えない部下には、過去に遡ります。
これまでで最も熱中したこと、楽しかったこと(仕事外の趣味でも構いません)を丁寧に聴きます。
「これまでで一番熱中したことは何?」
「そのとき、何が楽しかった?」
「なぜ、それに惹かれたんだろう?」
ここで出てくるのが、内発的動機の核になる「好き」です。
大切なのは、聴いて終わりにせず、その「好き」を今の仕事のどこで使えるかを一緒に探すこと。
「段取りを組むのが好きなんだね。
じゃあ次の案件、進行の設計から任せてみようか」とつなげた瞬間に、仕事の意味が変わります。
成果ではなく、日々の工夫に対して、10秒でよいので承認を返します。
「さっきの報告、要点がまとまっていてわかりやすかった」
「この資料、図で説明してくれたから理解しやすいね」
ポイントは、褒めることではなく、何が良かったのかを具体的に名指しすることです。
小さな承認が積み重なると、部下の中に「これは良い仕事だ」という持論が育ちます。
持論が育つと、上司の評価を待たずに自分で判断して動けるようになります。
ミスやトラブルが起きたとき、個人への「なぜ」ではなく、出来事の側に問いを向けます。
「何がこの遅れを引き起こしたと思う?」
「どの手順を変えれば、次は防げるかな?」
主語を人から仕組みに移すだけで、部下は身構えずに原因を話せます。
責任追及の場が、改善の場に変わります。
上司は、部下の悩みをその場で解決する必要はありません。
「私が助けます」ではなく「私も一緒に悩みます」という姿勢が、信頼と対話を引き出します。
「それは難しいね。
私も正解はわからないけど、一緒に考えてみようか」
あわせて有効なのが、抱え込ませないことです。
「自分で考えて」と突き放すのではなく、「この件なら◯◯さんが詳しいから、聞いてみたら?」と社内のリソースにつなぐ。
助けを借りる力を育てることは、部下がより大きな仕事に挑む土台になります。
なお、部下が上司に求めているのは必ずしも問いかけではない、という点は1on1がうまくいかない理由。メンバーはコーチングを求めていないで詳しく述べています。
現状維持を望む部下に、壮大なキャリアビジョンを求めても動きません。
現実的で具体的な小さなビジョンを一緒に決めます。
「金曜の午後を、学びの時間にする」
「毎週水曜は定時で帰る」
そのうえで、実現に必要な工夫(ツールの導入、業務の見直しなど)を本人に考えてもらいます。
小さなビジョンは、大きな主体性の入口になります。
ここまでの5つに共通しているのは、上司がやりがいを持っていないという前提です。
やりがいを管理しようとすると、上司は「与える側」に立ちます。
目標を示し、意義を語り、褒めて動かす。
しかし、やりがいの材料は部下の中にしかありません。
何に熱中してきたか、何を良い仕事だと思うか、どんな状態を望むか。
上司がどれだけ意義を語っても、部下の内側にある材料と結びつかなければ、やりがいには変わりません。
| やりがい管理 | やりがい共創 | |
| 前提 | 上司が意味を与える | 意味の材料は部下の中にある |
| 問い | 「将来どうなりたい?」 | 「これまで何に熱中した?」 |
| 承認 | 成果に対して | プロセスと変化に対して |
| 問題が起きたとき | 個人に原因を問う | 構造に原因を問う |
| 上司の役割 | 動機づける人 | 一緒に材料を見つける人 |
管理から共創へ。変えるのは制度ではなく、問いの向きです。
ここまでお読みいただいて、内容そのものは「知っている」と感じた方も多いかもしれません。
実際、調査でも約73%が「重要だとわかっているのに、実践できていない」状態でした。
やりがいを扱う対話が難しいのは、技術を知らないからではなく、自分の関わり方の癖が自分では見えないからです。
アンドアの管理職研修では、体感ワークを通じて、この癖を可視化します。
たとえばチームで課題に取り組むワークでは、指示を出しすぎていないか、メンバーの意見を引き出せているかが、その場で本人に見えるかたちで表れます。
また、対話の傾向診断を使うと、職場での関わり方を客観的に把握できます。
診断すると、「自分は話を聞けている」と考えている管理職が、メンバーからは「上司が8割話している」と評価されている、という現実に直面することがあります。
この健全な危機感が、行動が変わる起点になります。
傾聴スキルや質問テクニックを部品として学ぶのではなく、対話の流れ全体を実践しながら身につける。
この積み上げによって、やりがいを与えるものから共創するものへと、関わり方が変わっていきます。
部下のやりがいは、待っていても湧いてきませんし、上司が管理して配れるものでもありません。
対話によって、部下自身の中から引き出されるものです。
要点は3つです。
明日の1on1で、「これまでで一番熱中したことは何?」と聞いてみてください。
その一言が、やりがいを共創する対話の入口になります。
やりがいは、与えるものではなく、一緒に見つけるもの。
その対話の質が、組織の未来を変えます。
Q. 部下のやりがいは、上司が管理すべきものですか?
A. 管理はできません。
やりがいの材料(何に熱中してきたか、何を良い仕事と考えるか)は部下の中にあるためです。
上司にできるのは、その材料を対話で引き出し、いまの仕事と結びつけることです。
Q. 1on1の回数を増やせば、部下のやりがいは上がりますか?
A. 上がりにくいです。
2,062名の調査では、対話の質がやりがいに与える影響は量(頻度)の約2.4倍でした。
質の低い対話を繰り返すと、かえって「どうせ変わらない」という諦めが強まります。
Q. ハラスメントが心配で、厳しいことを言えません。どうすればよいですか?
A. 厳しさの有無ではなく、焦点の置き方を変えてください。
個人の資質に「なぜ」と問うのではなく、「何がこの結果を引き起こしたか」と出来事の構造に問いを向けると、指摘が人格批判になりません。
Q. 「将来どうなりたい?」と聞いても答えが返ってきません。
A. キャリアが見えていない相手に未来を問うと、相手は答えを持っていないため止まります。
過去に熱中したこと、楽しかったことから聴いてください。
内発的動機は、未来ではなく過去に手がかりがあります。
Q. 何から始めればよいですか?
A. 1on1の最後に「次回までにお互いが何をするか」を一言決め、次回の冒頭で必ずその振り返りから入ることです。
調査では、対話への不満の1位は「話し合っても結果が実行されない」(45.5%)でした。
実行の往復が、対話への信頼をつくります。
アンドアの管理職研修、対話の傾向診断についてはこちらをご覧ください。
監修:アンドア株式会社 取締役 松本悠幹 / 発行:アンドア株式会社
山梨県出身。山梨でコミュニティカフェを経営後、人材組織開発コンサルティング会社に入社。 スタートアップから大手企業の若手・中堅向けリーダーシップ開発や組織の対話風土改革に尽力した後、新規事業開発部にて事業開発マネジャー、営業マネジャーを兼任。 自社内の事業構造改革から営業戦略・マーケティング戦略まで広く携わり、その知見を人材・組織開発へ転用することを得意としている。 モットーは、「本来の力が発揮できる対話力と環境づくりを引き出す」
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