キャリア自律時代の若手育成、鍵は「細かいフィードバック」と「対話の質」

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はじめに:増える”評価されたいけど、期待されたくない”若手

「若手社員が『リーダーは目指していない』と言いながら、同時に『自分の努力を見てくれない』と不満を漏らしています。どう接すればいいのでしょうか…」

これは、最近の人事担当者やマネージャーからよく聞かれる悩みです。
昨今の若手社員の多くは、キャリアへの不安と組織への期待が入り混じった複雑な心境を抱えています。
彼らは自分の存在価値を認めてほしいと願う一方で、明確な役割や責任への「期待」には警戒感を示します。

この一見矛盾する態度の裏には、キャリア観の多様化と組織内での自己実現を両立させたいという現代特有の葛藤があります。
本コラムでは、若手社員と組織の関係性を育む「対話」の重要性と、実践的なアプローチについて考察します。

若手と上司、それぞれの”執着”が対話を阻む

上司の無意識な前提:「キャリアは直線的」

多くの管理職世代は、「入社→一人前→リーダー→管理職」という直線的なキャリアパスを歩んできました。
そのため無意識のうちに、自分の部下も同じ道を進むべきだという「前提」を持ってしまいがちです。

「君は将来、このチームを率いる立場になるんだから…」
「3年後にはリーダーとして○○の仕事を任せたいと思ってるよ」

こうした言葉は、上司の期待を表現しているつもりでも、若手社員にとっては「勝手に将来を決められた」「自分の意思が尊重されていない」と感じる原因になります。

若手の誤解:「自分一人で完結すべき」

一方、若手社員の側にも「誤解」があります。特に目立つのが「自分のキャリアは自分一人で完結すべき」という思い込みです。彼らの多くは以下のような心理を抱えています。

  • 「周囲に迷惑をかけたくない」
  • 「自分のことは自分で決めたい」
  • 「失敗して批判されるのが怖い」

この心理が強すぎると、組織に属しながらも「なぜ自分がここにいるのか」という存在意義を見失い、孤立感を深めることになります。
その状況は、自分の価値を見出すために、周囲からの承認やフィードバックを求める行動にも繋がり、「上司が評価してくれない。」「認めてくれない。」と言った発言につながっていきます。

この状況を打破するには、上司と若手の間の「対話の質」を高めることが不可欠です。
単なる情報交換や指示ではなく、互いの本音や価値観を共有できる対話の場が必要なのです。

キャリア観は”変幻自在”でいい時代へ

現代のキャリアは、もはや一本道ではありません。「プロティアンキャリア」という概念が示すように、自分自身の価値観や環境変化に合わせて柔軟に形を変える「変幻自在」のキャリアが主流になりつつあります。

  • プレイヤーとマネージャーを行き来する
  • 専門性を深めつつ、新たな領域に挑戦する
  • オペレーションとクリエイションを組み合わせる

こうした多様なキャリアパスが認められる時代において、「キャリア自律」とは何でしょうか。

それは単に「自分で決める」ということではなく、「自分のリソース(強み・弱み・価値観)を理解し、意思を持って選ぶ力」と言えます。

しかし重要なのは、この「自律」は「孤立」とイコールではないということです。
真のキャリア自律は、組織との対話を通じて互いの期待や価値を擦り合わせながら実現していくものなのです。

上司に求められる関わり方の転換

リーダーを”押し付ける”のではなく、”育てたい理由”を言語化する

今の時代に必要なのは、単に「役職者○人」という数合わせではなく、「○○を成し遂げるための人物像」を若手と共有することです。
そのために上司に求められるのは、自らの「人材ビジョン」を明確に言語化する能力です。

例えば、こんな問いかけをしてみてはいかがでしょうか。

「私たちのチームが3年後に○○という課題に取り組むとき、どんな人材が必要だと思う?」
「あなたの強みを活かして、どんなチームづくりに貢献できそう?」

こうした対話を通じて、若手社員は「自分がなぜ必要とされているのか」「どんな貢献ができるのか」を自ら考えるきっかけを得ることができます。

若手の”組織への意味づけ”を支援するには?

決め手は「細かいフィードバック」

若手社員が組織での自分の価値や存在意義を見出すために最も効果的なのが、日常的な「細かいフィードバック」です。

「今日のミーティングでの発言、的確だったよ」
「あのデータ分析の視点、新しい気づきがあった」
「困っている同僚をサポートしていたね。チームワークに貢献している」

こうした具体的で小さなフィードバックの積み重ねが、若手社員の自己肯定感と組織への貢献実感を育みます。

重要なのは、若手社員が「組織にいる意味や価値」は、多くの場合、実際の経験を通じて”後から”自覚されるものだということです。最初から明確なビジョンを持っている人はむしろ少数派であり、多くの人は日々の業務や対話の中で、徐々に自分の居場所を見つけていきます。

弊社が提唱する「Will×Skill=Challenge」モデルを活用すると、若手社員の成長をより効果的に支援できます。

  • Will(好きなこと、やりたいこと)
  • Skill(できること、経験や実績)
  • Challenge(挑戦、成長につながる目標)

これらの要素を対話の中で丁寧に引き出し、すり合わせていくことで、若手社員は「自分らしさ」と「組織の期待」の接点を見出すことができるのです。

人事・マネージャーが明日からできること

上司が意識すべき3つのこと

1. キャリアは多様で良いという前提を持つ
固定的なキャリアパスを押し付けるのではなく、多様な選択肢があることを認め、若手社員自身の意思を尊重する姿勢を示しましょう。

2. 人材ビジョンを未来起点で言語化する
「このポジションに就くべき」という現在起点の考え方ではなく、「将来実現したいことのために必要な人材像」という未来起点の発想で対話を進めましょう。

3. 評価の基本は「見てるよ」の一言
大げさな評価や賞賛ではなく、日常の小さな努力や成長を見逃さず、具体的にフィードバックすることが重要です。「あの場面での○○、良かったよ」というシンプルな一言が、若手の自己肯定感と貢献意欲を高めます。

弊社では、これら3つの要素を強化するために「KIK²AKE診断」を活用しています。
この診断はマネジャーの対話パターンを分析し、「多様なキャリア観を受け入れる柔軟性」「未来ビジョンの言語化力」「日常的なフィードバック頻度」などの強みと課題を可視化。
データに基づいた具体的な改善アクションを提案することで、若手育成に効果的な対話の質向上を支援しています。

若手がつまずきがちなポイントへの支援

1. 「迷惑をかけちゃいけない」思考を緩める関わり
質問や相談、失敗を歓迎する環境づくりが大切です。「聞いてくれて助かる」「その失敗から学べるものがある」といったポジティブな反応を示すことで、安心して挑戦できる心理的安全性を提供しましょう。

2. 周囲との関係性の中で自分の価値を実感する経験機会の提供
個人の成果だけでなく、チームへの貢献や他者との協働の機会を意識的に設けることで、「一人では成し得なかったこと」を体験してもらいまさせましょう。こうした経験が、組織に属する意義の実感につながります。

対話の質を高める実践例:「きっかけ砂時計1on1」

弊社が提唱する「きっかけ砂時計1on1」は、短い時間でも効果的な対話を実現するアプローチです。

  1. 目的の明確化:対話の目的を共有し、期待値をすり合わせる
  2. 現状の把握:事実と心情の両面から現状を理解する
  3. 問いかけと気づき:相手が自ら考えるための問いを投げかける
  4. 次のアクション:具体的な行動計画を確認する

この4ステップを意識することで、日常的な対話の質が向上し、若手社員の自己認識と行動変容を促すことができます。

キャリア自律とは”問いかけとフィードバック”の積み重ね

キャリア自律を支援する人材育成において、上司からの一言一言が若手社員のキャリア観に深く影響を与えます。

「今のあなたの○○、すごく良かった」
「あの場面での判断は、チームにとって大きな価値があった」

こうした”細かいフィードバック”の積み重ねが、やがて組織への意味づけとなり、若手自身のキャリアを動かします。
目の前のメンバーが組織でどんな可能性を育んでいるのか――ぜひ日々の対話の中で見つけて、伝えていきましょう。

執筆者

堀井 悠

スターバックス、学習塾、リクルートを経歴し、大手・ベンチャーのカルチャーを経験。 人材組織開発コンサルティング企業で、自動車メーカー、食品会社、スタートアップ事業で企画、開発、講師を経験。 独自の理論「腹割り対話でつくる組織変革」を提唱。 モットーは「あした、また、がんばろう」と思えるチームを増やすこと。

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