1on1がうまくいかない理由ーメンバーはコーチングを求めていない

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「またあの質問か」―1on1疲れの正体

「1on1を実施していますが、もう疲れました。上司からいろんな問いを出されるんですけど、面倒くさいです。上司が学んできたコーチングを使っているだけでは、私の悩みは何も解決できません。この上司のコーチングに付き合わないとダメなんですか?」

これは、研修の場で若手社員から聞かれる本音です。
近年、多くの企業で1on1が導入され、マネージャーはコーチング技術を駆使して部下と対話しようと試みています。
しかし、その努力が逆効果になっているケースが少なくありません。

なぜこのようなことが起きているのでしょうか?

その原因は、「コーチング」と「対話」の混同にあります。

「次はこの質問が来るな」―誘導される不快感

1on1の場で、多くのメンバーが感じる違和感。それは「誘導されている」という感覚です。

コーチングを学んだ上司は、一連の「質問の流れ」を身につけています。
そして無意識のうちに、その質問パターンに沿ってメンバーを「導こう」とします。
一方、メンバーはそのパターンをすぐに見抜きます。

「次はこの質問が来るだろうな」
「この質問の狙いは何なんだろう」
「こう答えてあげないといけないんだろうな」

このような心理状態でメンバーが応答すると、その場は「演技」になってしまいます。
本来の目的である「共に考える」という状態からは遠ざかり、上司の質問に「付き合わされている」という不満だけが残ります。

上司の執着―「良きコーチでなければならない」

なぜこのような状況に陥るのでしょうか。
それは上司側の無意識の「執着」にあります。

  • 「良きコーチ役でなければならない」
  • 「素敵な質問を投げなければいけない」
  • 「○○さんとの面談すごかった、と言われたい」

こうした考えは、実は「傲慢さ」の表れです。
相手の内面にあるものを「引き出してあげる」という姿勢自体が、対等ではない関係性を作り出しています。

実際のところ、メンバーは上司に「コーチング」を求めていません。
彼らが望むのは、一緒に考え、一緒に悩んでくれる存在なのです。

対話とコーチングの違い―フラットであること

弊社では、「コーチング」と「対話」は似て非なるものだと考えています。
特に職場での1on1において重要なのは「対話」の質です。

対話の特徴は、何よりも「フラット」であることです。

例えば、旅行の計画を立てる場面を想像してみましょう。

対話の場合: 「熱海に旅行行きたいよね」 「温泉ってどこ行ったらいいんだろうね」 「熱海で何か食べたいものある?」

コーチング風の場合: 「佐藤さんにとって熱海での最高の温泉体験とは何ですか?」

後者の問いかけは、相手に「答えなければならない」というプレッシャーを与えます。
これでは共に考えるという感覚ではなく、「事情聴取されている」ような不快感だけが残ります。

フラットな対話を実現するポイント

では、どうすれば本当の意味での対話が実現できるのでしょうか。
ここでは、マネージャーとメンバー双方にとって有効なポイントをご紹介します。

1. マネージャーが意識すべきこと

自分の執着を手放す

「良いコーチングをしなければ」「素晴らしい質問をしなければ」という執着を手放しましょう。
完璧なコーチングよりも、素直な対話の方が価値があります。

自分の考えも共有する

フラットに対話を進めることを考えると、一方的に質問するのではなく、自分の考えや悩みも共有していきましょう。
「私はこう考えているけど、どう思う?」と対話を進めることで、対等な関係として、相手の気持ちや考えを聞くことができます。

相手の反応を敏感に察知する

もし相手が質問に対して不快感や戸惑いを示した場合は、すぐに関わり方を見直しましょう。
相手の表情の中でも、目線や眉の動き、口元の反応を見ることで、相手が今不快感を感じているのか、前向きに話せているのかを察知できます。

2. メンバーができること

質問の意図を聞き返す

誘導されていると感じたら、「この質問の狙いは何ですか?」と素直に尋ねてみましょう。
これは決して失礼なことではなく、むしろ対話を深める有効な手段です。

答えにくい時は正直に伝える

「何を答えたらいいかわからない」「いま考えがまとまらない」と正直に伝えることで、不自然な回答を避けることができます。

自分からも質問や意見を述べる

1on1は上司の質問に答える場ではなく、互いに考えを共有する場です。
自分からも質問や意見を積極的に述べましょう。

本当の対話が生まれる「きっかけ」とは

弊社が提唱する「きっかけ砂時計1on1」は、誘導的なコーチングを避け、フラットな対話を実現するためのフレームワークです。
このモデルでは、以下の要素を大切にしています。

  1. 目的の共有 – なぜこの対話をするのかを明確にする
  2. 事実と心情の把握 – 現状を多角的に理解する
  3. 互いの思考の共有 – 一方的に問うのではなく、互いの考えを交換する
  4. 共に行動を考える – 次のステップを一緒に検討する

このフレームワークを意識することで、「私がコーチングして、あなたが答える」という不均衡な関係から脱却し、真の意味での対話が生まれるのです。

対話はフラットに

メンバーが上司に求めているのは、優れたコーチング技術ではありません。
それは「共に考え、共に悩み、共に成長する」という姿勢です。

1on1が形骸化し、疲弊感だけが残るようであれば、それはコミュニケーションの本質から外れているサインです。
上司もメンバーも、互いに遠慮なく、フラットに意見を交わせる環境こそが、真の意味での職場の対話であり、それが組織の成長につながるのです。

弊社では「対話傾向診断KIK²AKE」を通じて、チームの対話パターンを可視化し、より良いコミュニケーション環境の構築を支援しています。
コーチングの技術は重要ですが、それ以上に大切なのは、互いを尊重し合うフラットな関係性です。

メンバーはコーチングを求めていない―この事実を受け止め、真の対話を楽しむことから、新しい関係性が始まるのではないでしょうか。

執筆者

松本 悠幹

山梨県出身。山梨でコミュニティカフェを経営後、人材組織開発コンサルティング会社に入社。 スタートアップから大手企業の若手・中堅向けリーダーシップ開発や組織の対話風土改革に尽力した後、新規事業開発部にて事業開発マネジャー、営業マネジャーを兼任。 自社内の事業構造改革から営業戦略・マーケティング戦略まで広く携わり、その知見を人材・組織開発へ転用することを得意としている。 モットーは、「本来の力が発揮できる対話力と環境づくりを引き出す」

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