対話型フィードバック面談の極意〜7つのチェックポイントで部下の可能性を引き出す〜

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フィードバック面談を「対話」の場へ

「フィードバック面談」と聞いて、どのようなイメージを持たれるでしょうか?

「上司から部下への一方的な評価伝達」 「結果の報告と次期目標の確認」 「形式的な手続きとしての面談」

多くの企業では、フィードバック面談がこのような一方通行のコミュニケーションになりがちです。しかし、部下の成長とパフォーマンス向上を促すフィードバックは、「対話」を通じて実現します。

多くの人材開発研究が示すように、一方的な評価伝達式のフィードバック面談よりも、対話を重視したアプローチの方が、面談後の行動変容を促進します。
その差は、部下自身による「気づき」と「納得感」にあります。

弊社が開発した「きっかけ砂時計®︎」モデルは、この対話型フィードバックを実現するための実践的フレームワークです。
本稿では、このモデルに基づいた7つのチェックポイントを通じて、部下の可能性を最大限に引き出す対話型フィードバック手法をご紹介します。

対話型フィードバックのメリット

評価から対話へ:パラダイムシフト

従来のフィードバック面談では「評価を伝える」ことに主眼が置かれていました。
しかし対話型フィードバックでは、「共に考え、共に成長する」ことが目的となります。

この違いは、先日のコラム「メンバーはコーチングを求めていない」でも触れたように、上司が「良いフィードバックをしなければ」という執着から解放され、よりフラットな関係で部下と向き合うことで生まれます。
フラットな関係性こそが、真の対話を可能にする土台なのです。

「きっかけ砂時計®︎」で実現する対話型フィードバック

弊社が提唱する「きっかけ砂時計®︎」モデルは、短時間でも効果的な対話を実現するフレームワークです。
フィードバック面談においても、このモデルが強力なガイドとなります。

  • き(興味関心):面談の目的を共有し、関心を高める
  • つ(積み上げ):具体的な事例や実績を振り返る
  • か(改善提案):今後に向けた改善点や強化点を考える
  • け(懸念払拭):実行する上での障壁や必要なサポートを明確にする

このモデルを活用することで、フィードバック面談は一方通行の評価伝達ではなく、未来に向けた建設的な対話の場へと変わります。

なぜ対話型フィードバックが効果的なのか

対話型フィードバックには、以下のようなメリットがあります。

  1. 自己認知の深化:部下が自分自身の行動や影響を自ら言語化することで、より深い気づきを得られます。
  2. 納得感の醸成:一方的な評価ではなく、対話を通じて共通理解を形成することで、次のアクションへの納得感が高まります。
  3. 相互の学び:上司も部下の視点や考えから学ぶことで、マネジメントスキルの向上につながります。
  4. 心理的安全性の強化:対話を通じて相互理解が深まることで、職場全体の心理的安全性が高まります。
  5. 継続的な成長意欲の喚起:フィードバックを「判定」ではなく「成長の機会」と捉えることで、継続的な学習意欲が育まれます。

対話型フィードバックの7つのチェックポイント

効果的な対話型フィードバックを実施するための7つのチェックポイントをご紹介します。
これらは「きっかけ砂時計®︎」モデルに基づき、フィードバック面談の質を飛躍的に向上させるポイントです。

1. 準備:目的と期待値の明確化(き:興味関心)

  • □ 面談の目的(成長支援、問題解決、キャリア開発など)を明確にしている
  • □ 取り上げる具体的な事例や行動を3つ以上リストアップしている
  • □ 面談で達成したい成果(どんな状態で終わりたいか)を具体的にイメージしている
  • □ 部下が準備できるよう、事前に面談の趣旨を伝えている

2. 場の設定:心理的安全性の確保(き:興味関心)

  • □ プライバシーが確保された場所で実施する計画を立てている
  • □ 十分な時間(30分~1時間)を確保している
  • □ 中断されない環境を整えている(電話やメールの通知をオフにするなど)
  • □ 座席の配置は対面ではなく、90度か横並びにすることを検討している

3. 事実の共有:具体的な事例に基づく対話(つ:積み上げ)

  • □ 具体的な状況や行動を客観的に描写している(「〇〇の場面で△△という行動をしていました」)
  • □ 部下自身の定性的・定量的な自己評価を聞いている
  • □ 主観的な評価や解釈を含まない事実の共有から始めている
  • □ 部下の認識や記憶と照らし合わせる質問をしている
  • □ 複数の事例やパターンを提示できるよう準備している

4. 解釈と影響:行動がもたらした影響の共有(つ:積み上げ)

  • □ その行動がもたらした具体的な結果や影響を伝えている
  • □ ポジティブな影響とさらなる可能性について触れている
  • □ 改善機会の場合、なぜそれが重要なのかを説明している
  • □ 組織やチームの目標との関連性に言及している

5. 相手の視点:部下の考えや意図を引き出す(か:改善提案)

  • □ 部下自身の振り返りや見解を引き出す質問をしている
  • □ 部下の意図や考えを尋ねている(「その時何を考えて行動しましたか?」)
  • □ 部下の感想や感情にも注目している(「その結果をどう感じましたか?」)
  • □ 部下の言葉をしっかり聴き、理解を示している

6. 今後のアクション:具体的な行動計画の策定(か:改善提案)

  • □ 強みをさらに活かす/改善点を補強するための具体的なアクションを話し合っている
  • □ 目標は具体的で測定可能かつ達成可能なものになっている
  • □ 部下自身がアクションプランを提案する機会を設けている
  • □ 必要なサポートやリソースについても話し合っている

7. フォローアップ:継続的な支援と振り返り(け:懸念払拭)

  • □ 次回のフォローアップ面談の日程を設定している
  • □ 途中経過を確認する方法や頻度を決めている
  • □ 成功を称える機会をあらかじめ計画している
  • □ 面談の内容や合意事項を簡潔に文書化している

各チェックポイントの実践ポイント

1. 準備:目的と期待値の明確化(き:興味関心)

具体的な事例を選ぶ際は、「成功事例」と「改善機会」のバランスを意識しましょう。
特に、部下自身が気づいていない「強み」に関するフィードバックは、大きな気づきと変化をもたらします。

2. 場の設定:心理的安全性の確保(き:興味関心)

面談の冒頭で「今日はあなたの成長をサポートするためのフィードバック面談です。
一方的に評価を伝えるのではなく、一緒に考えていきたいと思います」と伝えることで、部下の心理的安全性が高まります。

3. 事実の共有:具体的な事例に基づく対話(つ:積み上げ)

「きっかけ砂時計®︎」モデルの「興味関心」と「積み上げ」の段階に相当します。
この段階では判断を交えず、事実に焦点を当てることが重要です。
「先週のプロジェクトミーティングでのプレゼンで、データの分析と提案を明確に区別して説明していましたね」といった具体的な描写を心がけましょう。

4. 解釈と影響:行動がもたらした影響の共有(つ:積み上げ)

ここでは「その行動が与えた影響」に焦点を当てます。
例えば「あなたのプレゼンの構成がクリアだったおかげで、クライアントの理解が深まり、追加の質問も具体的になりました。
特に〇〇さんが納得されていた様子が印象的でした」など、具体的な影響を伝えましょう。

5. 相手の視点:部下の考えや意図を引き出す(か:改善提案)

ここが対話型フィードバックの核心部分です。
「きっかけ砂時計®︎」モデルの「改善提案」に相当します。
部下自身に考えを整理する時間を与え、「あなたはこの状況をどう見ていますか?」「もし同じような状況があれば、どのように対応したいと思いますか?」といった質問を通じて、自己認知を促します。

6. 今後のアクション:具体的な行動計画の策定(か:改善提案)

「きっかけ砂時計®︎」モデルの「改善提案」の続きです。
部下から出てきたアイデアに対して「それを実行する上で、どんな障害がありそうですか?」「どんなサポートがあれば実行しやすいですか?」と問いかけることで、実行可能性の高いプランに練り上げていきます。

7. フォローアップ:継続的な支援と振り返り(け:懸念払拭)

対話型フィードバックの効果を最大化するには、継続的なフォローアップが不可欠です。
「来週の水曜日に10分程度、進捗を確認させてください」「月末のチームミーティングで、この取り組みの成果を共有できるといいですね」など、具体的なフォローアップの機会を設定しましょう。

構造化と感受性のバランスを取る:事実・心情・目的の三要素

「構造化」と「感受性」の二軸を用いることで、フィードバック面談の質を確認しましょう。
この二軸を活かすために、「事実・心情・目的」という三要素を意識することが効果的です。

構造化は、面談の論理的な流れと結論への道筋を明確にする要素です。

  • アジェンダの設定と時間配分
  • 論点の整理と可視化
  • 決定事項と次のアクションの明確化

感受性は、相手の心理状態や非言語コミュニケーションに注意を払う要素です。

  • 相手の表情や姿勢の変化への気づき
  • 感情的な反応への配慮
  • 言葉の裏にある意図や価値観への理解

フィードバック面談では、この二軸のバランスを意識しながら、以下の三要素をしっかり捉えることが重要です。

  1. 事実 – 客観的に何が起きたのか
  2. 心情 – その状況で何を感じたのか
  3. 目的 – なぜそうしたのか、何を達成しようとしたのか

特に「心情」と「目的」を丁寧に聴くことで、単なる行動の是非を超えた深い対話が実現します。

効果的な質問テクニック

対話型フィードバックの質を高める質問テクニックをいくつかご紹介します。弊社の「きっかけ砂時計®︎」モデルの各段階に応じた質問例も含めています。

事実確認の質問:客観的な事実や状況を確認し、共通認識を作る質問です。
例:「そのミーティングでは具体的にどのような議論がありましたか?」
例:「その判断をする際に、どんな情報を参考にしましたか?」

心情を引き出す質問:相手の感情や価値観を理解するための質問です。
例:「その結果を聞いたとき、どんな気持ちでしたか?」
例:「チームのフィードバックを受けて、どう感じましたか?」

目的や意図を掘り下げる質問:行動の背景にある意図や目的を理解するための質問です。
例:「その方法を選んだ理由は何でしたか?」
例:「そのプロジェクトで最も達成したかったことは何でしたか?」

再現性を引き出す質問:成功体験や効果的だった行動の「再現性」に焦点を当てる質問が有効です。
例:「その取り組みが上手くいった要素は何だと思いますか?他のケースでも活かせそうですか?」
例:「この成功体験を次回も再現するためには、どのような点に注意すべきでしょうか?」

未来志向の質問:過去の問題に執着するのではなく、未来の可能性に目を向ける質問を心がけましょう。
例:「次回同じような状況があれば、どうアプローチしたいですか?」
例:「このスキルをさらに伸ばすために、次に挑戦したいことはありますか?」

障壁や懸念を特定する質問:実行の妨げになる要因を特定し、解決策を考えるための質問です。
例:「この計画を実行する上で、どんな障害が予想されますか?」
例:「その目標に取り組む際に、どんなサポートがあると助かりますか?」

対話型フィードバックでは、これらの質問を状況に応じて柔軟に組み合わせることが重要です。
ポイントは、質問の「テクニック」に執着するのではなく、相手の成長を支援するという「目的」を見失わないことです。

難しいフィードバックを伝える際のアプローチ

改善が必要な点や厳しいフィードバックを伝える際には、以下のポイントを心がけましょう。

  1. 事実と影響に焦点を当てる:個人の性格や態度ではなく、具体的な行動とその影響に焦点を当てます。
  2. 「私は~と感じました」というI(アイ)メッセージを使う:「あなたは~だ」という断定的な表現ではなく、自分の観察や感じたことを伝えます。
  3. 改善の意図と期待を明確に:なぜその行動が問題なのか、どのような改善を期待しているのかを明確に伝えます。
  4. 相手の立場や状況を理解する:背景や状況要因を考慮し、一方的な批判にならないよう配慮します。
  5. 解決策を共に考える:問題指摘だけでなく、どうすれば改善できるかを一緒に考える姿勢を示します。

まとめ:明日から使える対話型フィードバックチェックリスト

対話型フィードバック面談を効果的に行うための7つのチェックポイントを一覧にまとめました。
「きっかけ砂時計®︎」モデルに基づいたチェックリストを、明日のフィードバック面談からぜひご活用ください。

執筆者

松本 悠幹

山梨県出身。山梨でコミュニティカフェを経営後、人材組織開発コンサルティング会社に入社。 スタートアップから大手企業の若手・中堅向けリーダーシップ開発や組織の対話風土改革に尽力した後、新規事業開発部にて事業開発マネジャー、営業マネジャーを兼任。 自社内の事業構造改革から営業戦略・マーケティング戦略まで広く携わり、その知見を人材・組織開発へ転用することを得意としている。 モットーは、「本来の力が発揮できる対話力と環境づくりを引き出す」

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