報告だけの会議を変えるための対話のデザイン術

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「報告の場」から抜け出せない会議の現実

「会議が多すぎて仕事にならない」 「いつも同じメンバーしか発言しない」 「結局、事前に決まっていることの追認になってしまう」

こうした悩みは、多くの企業で共通して聞かれるものです。会議の多くは、いまだに「報告の場」として機能しており、本来あるべき「対話を通じた創造の場」になり得ていません。

現代のビジネス環境では「正解がない問い」に向き合うことが増えています。そうした問いに対しては、多様な視点からの対話を通じて新たな意味や価値を創造することが不可欠です。

しかし多くの会議では、その本質的な機能が果たせていないのが現状です。

心理的安全性だけでは不十分

近年、会議の質を高める要素として「心理的安全性」が注目されています。確かに、メンバーが罰せられる恐れなく自分の意見や疑問を表明できる環境は、対話の基盤として欠かせません。

しかし、心理的安全性が高い組織であっても、必ずしも創造的な対話が生まれているとは限りません。なぜなら、安全な場があるだけでは、質の高い対話は自然には生まれないからです。心理的安全性は必要条件ではありますが、十分条件ではないのです。

創造的な会議を実現するためには、心理的安全性に加えて「対話のデザイン」が不可欠です。ここでは、対話で進める会議を成功させるための3つのポイントをご紹介します。

対話で進める会議の3つのポイント

1. 「何のための会議か」を再定義する

多くの会議が形骸化する最大の原因は、「会議の目的」が不明確なことです。

以下のように会議の目的を明確に区別することが重要です。

  • 情報共有型 一方向の情報伝達が主目的
  • 意思決定型 特定の課題について方向性を決める
  • 問題解決型 課題の原因分析と対応策の検討
  • 創造型 新たなアイディアやビジョンの創出

これらは全く異なる目的であり、それぞれに適した進行方法が存在します。にもかかわらず、多くの組織では「定例会議」という名のもと、これらが混在した会議が行われています。

会議の冒頭で「この会議で達成したいこと」を話し合いましょう。例えば、「今日の会議は創造型で、〇〇について新しいアイディアを生み出すことが目的です」と明示することで、参加者の心構えが変わります。

2. 「構造化」と「感受性」のバランスを意識する

以前のコラムでも紹介した「構造化」と「感受性」は、会議の進行においても重要な二軸です。

構造化は、会議の論理的な流れと結論への道筋を明確にする要素です。

  • アジェンダの設定と時間配分
  • 論点の整理と可視化
  • 決定事項と次のアクションの明確化

感受性は、参加者の心理状態や相互関係に注意を払う要素です。

  • 発言していない人への配慮
  • 異なる意見への受容性
  • 非言語的なコミュニケーションの観察

多くの会議では、この二つの要素のバランスが崩れています。構造化に偏ると「効率的だが表面的」な会議になり、感受性に偏ると「和やかだが結論が出ない」会議になりがちです。

会議の性質に応じて、構造化と感受性のバランスを意識的に調整しましょう。例えば、創造型の会議では最初は感受性を高めてアイディアを出し合い、後半は構造化を強めて具体的なアクションにつなげるといった工夫が有効です。

3. 「発散」と「収束」のリズムを作る

質の高い対話を実現するためには、思考の「発散」と「収束」を意識的に切り替えることが重要です。

発散フェーズでは

  • 多様なアイディアや視点を歓迎する
  • 質より量を重視する
  • 批判や評価を控える

収束フェーズでは

  • 出されたアイディアを整理・分類する
  • 評価基準を明確にして優先順位をつける
  • 実行可能な形に具体化する

多くの会議では、この「発散」と「収束」が混在し、結果として両方が中途半端になっています。発言に対してすぐに評価が入るため新しいアイディアが出にくくなったり、収束のプロセスが不十分なため具体的なアクションにつながらなかったりするのです。

会議のアジェンダに「発散タイム」と「収束タイム」を明示的に設け、それぞれのルールを参加者と共有しましょう。例えば「最初の15分は批判禁止でアイディアを出し合い、次の15分で整理と評価を行う」といった形です。

対話型会議を定着させるための組織的アプローチ

対話型の会議を一過性のものではなく組織文化として定着させるためには、個々の会議だけでなく、組織全体のアプローチが必要です。

会議のメタ評価を導入する

会議そのものの質を継続的に向上させるためには「会議の振り返り」が効果的です。

  • 会議の最後に5分間を設け、「今日の会議はどうだったか」を評価する
  • 「目的は達成されたか」「対話のバランスは取れていたか」「次回に改善すべき点は何か」を問いかける
  • この振り返りの結果を次回の会議デザインに反映させる

ファシリテーターの育成と循環

組織内のあらゆる層でファシリテーション能力を高めることが重要です。

  • 管理職だけでなく、若手社員もファシリテーターを経験する機会を作る
  • 特定の会議では「進行役」と「内容の提供者」を分離する
  • 外部のファシリテーション研修だけでなく、内部での相互フィードバックの機会を設ける

対話型会議の成功体験を可視化する

対話を通じて生まれた価値を組織内で共有し、その効果を実感できるようにすることが定着へのカギです。

  • 対話型会議によって生まれた具体的な成果や変化を記録する
  • チームを超えて成功事例を共有する場を設ける
  • 「対話によって何が変わったか」を定期的に振り返る機会を作る

明日から始める対話型会議への一歩

対話で進める会議を実現するための3つのポイントを再確認しましょう。

  1. 「何のための会議か」を再定義する:会議の種類と目的を明確にし、参加者と共有する
  2. 「構造化」と「感受性」のバランスを意識する:会議の性質に応じて、論理的整理と心理的配慮のバランスを取る
  3. 「発散」と「収束」のリズムを作る:アイディア創出と意思決定のプロセスを意識的に分ける

これらのポイントを明日の会議から実践してみてください。小さな変化から始めて、徐々に対話の質を高めていくことが重要です。

対話の本質は「フラットな関係での意味の交換」です。会議も同様に、役職や立場を超えて、互いの思考を刺激し合い、新たな意味を創造する場へと変えていくことができるはずです。

弊社では、対話型会議の設計と実践、ファシリテーター育成、組織全体の対話文化構築など、様々な角度から組織の対話力向上をサポートしています。「報告の場」から「創造の場」へと会議を変革したい方は、ぜひご相談ください。

執筆者

松本 悠幹

山梨県出身。山梨でコミュニティカフェを経営後、人材組織開発コンサルティング会社に入社。 スタートアップから大手企業の若手・中堅向けリーダーシップ開発や組織の対話風土改革に尽力した後、新規事業開発部にて事業開発マネジャー、営業マネジャーを兼任。 自社内の事業構造改革から営業戦略・マーケティング戦略まで広く携わり、その知見を人材・組織開発へ転用することを得意としている。 モットーは、「本来の力が発揮できる対話力と環境づくりを引き出す」

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